『リュックのひと』
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私の特徴を上げるとしたら、
よく知らない人に声を掛けられる。
老若男女問わず道を訪ねられたり、変な奴もあったが。
私はどちからと言えば地味な方だ。
友達も少ないが、不自由ない。
小〜高校までは内向的だったが、短大に入ってアルバイトをして、すこーしだけ社交的になった。
が、地味なのには変わりない。
今年から新社会人になり、通勤電車にも馴れた頃。
毎日、毎日同じ駅で同じ時間に来る電車に乗っていると、
同じ駅、時間に電車に乗る人の顔を覚える。
サラリーマン、OL、大学生、高校生、作業服の人、どこかの会社の制服の人……
その中に。
スポーツでもしているのか?ってくらい色黒で、リュックを背負ってる。私と歳が変わらなさそうな人。
"昨日もいたなぁ""あ、今日もいるなぁリュックのあの人。"
そんな事を思う日が続いた。
季節が進み、日射しがキツい時期と仕事の試練が私にやって来た。
私の仕事はカッターを使うので怪我が付き物だ。
だからこそ
気をつけていたものの、
指先を切ってしまった。
血が溢れだし止まらない。
それどころか目眩も吐き気もする。
急患センターに向かった。
治療して貰い、職場に戻ると上司から、
「今日はもう大丈夫だから、帰りなさい」との言葉。
早めに家に着いた。
それから1週間経った。
切った所は縫って貰ったがまだ痛い。
今日の朝もガーゼをして、駅に向かう。
…痛々しい。
ホーム着くと先頭に並ぶ。
…隣には色黒のリュックの人がいる。
"あ、今日は隣に並んでしまった。"
___まもなく列車が参ります…
アナウンスと共に電車がやって来る。
乗り込むのを譲る為待っていると、
リュックの人に手を差し出された。
"先どうぞ"の意味合いがこもってる。
私は
「すみません、ありがとうございます」
言いながら会釈した。
それからさらに
2、3日経った頃。
いつものように電車内の壁側に寄りかかる。
少し違うのは、
リュックの人がいつもより近くにいた。
「手、どうされたんですか?」
思いもしない事が起こった。
「?!…仕事中にカッターで切って…」
「あー不自由そうですね。」
リュックの人に話し掛けられた。
「そういえば、あの駅にいるおばあちゃん。今日は居なかったですよね?」
リュックの人はまだ、話してる。
「…うーん…居なかったですね。」
「ですよね?あ!俺ここで降りますね!失礼します!」
困惑しながら会釈した。
びっくりした。
話し掛けられたことよりも、
リュックの人が、"失礼します!"の後に向けた笑顔。
私はこの日1日。
その笑顔が頭から離れなかった…。
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この続きは随時、小瓶流します。