私は中高一貫校の演劇部です。現在中三。
大会等もなく、でっかくお客さんを呼び込む年三回の公演とあとはちっちゃい内部公演何回か。
基礎練習とかはするけれど、本当に本番前さえ来てればセーフみたいなゆるい部活。
私の学校の演劇部は、春に高2(新高3)が卒部して受験に専念!って感じなんです。
それで道具リーダー(道具制作の案を考えて作業の進捗確認や道具全体を取り仕切る役割。裏方で部長兼監督、演出に次ぐ権力者)の引継ぎは文化祭の劇からなんです。その年の文化祭の舞台を成功させるのが道具リーダーの最初の仕事です。
普通はその時点で高1の先輩が引き継ぐんです。
前の代の先輩も、前の前の代もそうでした。
でも今年は高1の先輩は5人。
正直5人居れば十分なのですが、そのうち3人は高校生から入ってきた新入部員(経験0、演劇部一年目)。
なので、先輩とはいえ未経験で演劇部のこともよくわかってない人には任せられません。経験的には私が先輩ですし。
後の二人は役者です。仲の良い先輩だし、二人ともすごく演技が上手いので私はキャストをやってほしいし、人数不足のこの部活で、しかも舞台の顔となる役者は削れません。
と、なると私たち中3に回ってくる。
うちの学年も5人。
一人は前々からやってみたいと言っていた演出に立候補しました。
残り4人。
一人は幽霊部員、それにまともに道具をしているところを見たことがない。
残り3人。
一人はキャスト。その子も演技力がうちの学年でずば抜けているので人数不足のこの部活から削れない。
残り2人。
一人はほかのことに忙しそう。生徒会の役員なので毎日のように奔走してる。
……残ったのは私だけ。
幸か不幸か、私は去年のとある公演で道具にこれまでになかった「衣装制作」という分野を持ち込んだこともあって、信頼は積んでる。それに私は演劇部ヘビーユーザーだ、幽霊部員よりかは信用信頼ともに積んでます。
仕方なく、それに先輩の後押しもあり私は道具リーダーになりました!
めでたしめでたし……ならこんなところに愚痴りにきてるわけもなく。
大変なのはここからでした。
私は小学生のときにここの文化祭の演劇に憧れたこともあり、「文化祭の演劇」に対するこだわりと情熱と執着は部活内でも誰にも負けない自信があります。
前の公演の都合もあり、スケジュールが押していたので徹夜で道具案を考え、練り上げました。
しかし同級生の演出は二日間こなかった。その二日間で買い出しにでも行けたかもしれないのに。
お盆の登校禁止期間、リハーサルでやることや道具の具体的な設計図、本当に役者がこれで舞台上を通りやすいか等を何度も吟味してお盆明けを迎えました。
「お盆明けからすぐに毎日作業するから、部活に来てください」と道具の全員にメッセージを送って。
初日来たのは私含め二人。
まぁ初日だしね、とか思っていたら次の日も二人。
その次の日は三人来たけど、また二人。しかも私以外の一人は全く同じ人。でもその人も忙しい先輩だから来なくなって。
なんなんだよ、なんで来ないんだよ。
私は当たり前だけど後輩が足りない。だって当時の前道具リーダーよりも1学年低いもん。
頼みの綱の一年生はなぜか全員役者だし。なんで一年で役者するんだ?
高校生は文化祭の舞台の設営や運営で毎日気がとられてる。
基本的にそういう舞台設営とか運営のグループの幹部も演劇部からだし。
だから同級生や後輩に手伝ってもらわないといけないのに。
中2はクラス劇でみんな忙しいから、比較的ヒマがある1年生と道具しようと思ってたのに。
なぜよりによって全員役者なんだ?
もうほんと意味がわからない。
言おうとしたけど、そこで「なんで役者立候補したの?」と言っても嫌な先輩なだけだ。
立候補したものは取り消すことなんてできない。しかも役者なんて責任ある仕事。
それに先輩としてなら普通に経験は積んでほしいけどさ。
だから、もう最近はずっと私一人で作業してる。メッセージで来てくださいってお願いしても誰も来ない!
しかも、よっぽどのことがない限り来てくださいって言って、ちゃんと全員の都合は合わなくても
来れる人数が多かったから設定した強化日も道具メンバーの三分の一しか来ない!
一人で作業ってさみしいんだよ、この設計どうしようって悩んでも誰にも頼れない、思考の整理すらできない!
そしてこれは私個人の考えだけど、道具は役者を輝かせるためにあると思ってる。
役者は舞台に立った瞬間、輝く義務がある。
だから道具はそれを精一杯サポートするためのもの。
私はそういう「人を輝かせられる存在」に憧れて演劇部に入った。
正直、今回の劇の役者は一年生がほとんどだからぶっちゃけクオリティは高くない。
同級生の演技上手くて声の出る役者しか目立たないくらいには。
その時センターバミリにいるはずの重要な役の中1より、主人公だけどちょっと隅のほうでこそこそやってる同級生のほうが目立つくらいにはヤバい。
昨日、リハーサルがあった。
舞台袖からずっと見ていたけど、私にはこの劇を輝かせる価値があるとは思えない。
一生懸命役者も練習してれば私も「頑張ろうかな」ってなるかもしれない。
けど、役者のあつまりが悪いし努力の姿勢がはっきり言って見えない。
上手ければ文句はないんだ。私のその同級生みたいに。ある程度の水準を保ってくれればいいんだ。
正直その子にもだめなところもあるから来てほしいけどね。
一年生は下手で努力も見えない。コロナで濃厚接触になったんなんならさ、台詞覚える時間くらいあっただろーが!
夏休みの宿題でもぱぱっと終わらせちまって、役に対する解釈つかむとか鏡みて動きつけてみるとかできただろーが!
なのに私だけキャストを輝かせよう、輝かせなきゃ、って必死でバカみたいじゃん!
先輩が忙しくて作業来れないのはわかる。だって先輩が奔走してるとこ見てきてるもん。仲がいいからこそ沢山見てきたもん。
後輩のクラス劇が忙しいのもわかる。去年私もそれでドタバタしてたもん。
役者が手伝えないのもわかる。だって君たちは輝くべき人間だ、それを放棄させるわけにはいかないんだ。
だから私しか作業に来れないのもなんとなくわかる。
わかるけど、どうしようもない。
人がこないと作業できない内容だってたくさんあるの。
人手がないと永遠に終わらない作業だってあるの。
それに毎日、夢を見る。
私は文化祭の劇の本番中、舞台袖にいる。
ようやく終わったってほっとして扇風機にでも当たってたら、ふと音がする。さっと血の気が引いて舞台袖からのぞくと、自分が何日もかけて考えを練って作ったセットが崩れている。顔面蒼白。そこで目が覚める。
毎日、そんな夢ばっか見る。それで寝れなくって。
もう、演劇部から逃げてしまいたい。
道具リーダーなんか、やるんじゃなかった。