青空と雲とまだ少しだけ冷たい風と葉桜
初夏。人を殺した。汗ばむ温度の中、その一瞬だけ蝉の鳴き声が大きく聞こえた。
いつかはこうなるんだと思っていた。それが実際に起こっただけだ。特に何も思ったことはなかった。
あいつが死ねばみんな幸せになるだろうとは思っていたし、僕はあいつを心の底から憎んでいた。
あいつは、いつもヘラヘラしていて、誰にでも頭を垂れていつもいつも下手に出ていた。まるでなにかに怯えるように。みんなの前では元気で良い子ぶってるくせに一人のときは酷くやつれていて、いつも泣いていた。
あいつのことは誰も必要としていないと思っていた。実際そうだと思う。あいつはいらないんだ。
だから自分の手で殺した。それだけだった。
あいつがいなくなった。
誰も気にかけてはいなかった。ただ、なぜかみんな僕から離れていく。どうしてだろう。
あいつはいらないと思っていた。
今更後戻りなんてできない。
あいつを生き返らせることなんて無理な話だ。
それにもうあの日、後悔しないと誓った。
僕は溶けるようなあついあつい世界で
自分の手で僕の中の「僕(あいつ)」を消してやったんだ。
清々しかった。自分の中にいた悪魔のような人間が死んだのだから。
なのに
僕が僕じゃないみたいだ。
どうも死にたくて、つらい。
やっぱり僕にはあいつが必要だったみたいだ。
そんなことを思い出して、僕はあの冷たい海に身を投げた。
涼しい。
誰にも愛されなかった人生だった。