憧れだったかっこいい君へ。
幼い頃、2個上のお兄ちゃんを追いかけて
やり始めたサッカー。
今ではお兄ちゃんよりレベルの高いところで戦って
より高い壁にぶつかっている君。
今どんなにしんどい思いをしているだろうか。
私にはきっとわからない。
中学生の頃、ユースチームと中体連の掛け持ちで
頑張っていたと耳にした。
授業中も休み時間も、サッカーの解説動画を
見漁っていたのを私は知っている。
いつもいつも君は勉強熱心なんだよね。
きっと推薦でこの学校に入ってくる前からずっと。
数学とか国語とかそういう勉強よりも
サッカーの勉強。
好きなものを好きだけで終わらせない。
自分が描いた夢を叶えるために
一生懸命努力し続ける君はかっこいいと思う。
首筋に汗が光る。
そんな君は今日もピッチを煌々と照らす太陽の下で
したたる汗を拭いながらも悶え続けている。
君は私のこと、誰よりも嫌って、
誰よりも気にしていたらしいね。
あの件が君の尺に触ってしまったのだろう。
私が直接君に何かしたわけではないけれど、
少しの憂鬱感と後悔が頭から消えない。
あの件がなければ仲良しのままだったのかな。
一年間、君が私の悪口をチームメイトに
言っていたせいで、今ではネタ枠の私。
君は冷やかされるから嫌だとか言っているけれど、
私の話ばかりしていた君も君じゃない?
私の名前で呼ばれていじられるだとか。
どれも私のせいだけじゃないと思うんだけどなあ。
どうせ、他のチームメイトが私と話していたら
同じ様にいじるくせに。
今となっては名前を呼んでくれる選手も、
話しかけてくれる選手もいなくなってしまった。
そんな君は今私のことどう思っているのだろうか。
どうも思ってないのかな。
最近になって、ブロックしていたインスタも
解除してきただけに心境が読めない。
ブロックを解除した理由が、
少しでも私をマネージャーとして
認めてくれたからだったら嬉しいな。
去年のルーキーリーグ。
試合終了の笛が鳴り響く中、
ピッチに佇む君の目は珍しく潤んでいた。
悲しいより悔しい。
初戦の頃の輝かしい瞳とは変わって、
それはどこか冷たくて熱いものだった。
一度たりともスタメンを外れたことがない君は
余計思うところがあったのだろう。
勝敗を分ける鍵は
いつも少しの油断と集中力の低下だ。
問題点はわかっているのに直らないこの現状。
みんなは虚ろな目をしていた。
「サッカーって難しいのな」
ぞろぞろと帰る静まり返った団体の中で
天を仰ぐ君は言う。
最近みんなの調子が悪く、
負け続けることが多くなったが故に
順位が大幅に下がってしまっていた。
いつもあんなに強がる君も、こうもメンタルが削られる瞬間は表情に出るものだ。
苛立ちも悲しみも複雑な想いが隠せない君は
まだれっきとした高校生。
他のチームメイトを励ます余裕なんてない。
負け続けることで失われるモチベもメンタルも、
元通りにするのには時間がかかる。
やればやるほど想定外の怪我人がでることも、
今では当たり前のようになってしまった。
チームの結束がなんだかんだだの
綺麗事を言っている場合ではない。
一人一人が変わらないとどうしようもないことは
君だけじゃなく、
みんな心のどこかでは思っていたことだった。
私がまだ君と仲良しのままだったら
少しは励ませれたのかな。
もっと力になれたのかな。
ボロボロにされた時の君はどこか不機嫌で、
目の奥に光る想いは本物だった。
ある日キーパーのうち一人が部活に来なくなった。
君とユースチームが一緒だった
昔からのチームメイト。
そいつが部活に来なくなってから
2週間程経った今、
サッカー部ではネタと化している。
そんなある日、私はいつも通り部活に行くために
自転車を止めている寮に向かって歩いていた。
目の前には同じタイミングで学校を出た君と他のチームメイトがいる。
大きいリュックを背負い、右手にはお弁当箱、
左手には開きっぱなしの制鞄を握りしめる君は
いつもみんなの真ん中にいる。
そんな時、いろんな話で盛り上がっている君たちの
前を自転車で帰ろうとしていたそいつが通った。
その途端だった。君は走り出した。
「おい、お前こんなところで諦めるのかよ!
それでいいのかよ!!!」
そいつの名前を呼び続ける。
君は必死だった。
一生懸命に引き留めようとしていた。
そんな言葉にも振り返らず、
そいつは角を曲がって見えなくなってしまった。
君は走るのをやめて
肩を落とした様子で歩き出した。
しばらくして追いかけてきたチームメイトに
振り返って何かを言う君の顔は
見るに耐えなかった。
今まで同じチームで頑張ってきた仲間なのだ。
誰よりも彼に思い入れがあるのは
当然のことなのかもしれない。
「俺、サッカー辞める」
そう言い放ったまま、結局そいつが
部活に戻ってくることはなかった。
でもこの間、君とそいつが二人楽しそうに
学校に来ている姿を見かけてしまった。
そいつが辞める最後の最後まで
引き止めていたらしい君。
その表情に曇りはなく、またそいつも辞めたことは後悔していないようだった。
ルーキーリーグも最終節に差し掛かり、
みんなは気合に満ち溢れていた。
このリーグが終われば
このメンバーで試合をすることはなくなる。
”一年”というくくりから
AチームとBチームに分かれるのだ。
それぞれの場所で別々のリーグ戦の上を目指す。
君は一年の頃からルーキーとAチームの
掛け持ちだったんだよね。
その分君にかかる
プレッシャーも期待も高かった。
どれだけの思いでここまで腐らず
駆け上がってきたのだろうか。
今私にできることは全力で支えること。
君が悶え続ける限り、私も悶え続ける。
いつか君にマネージャーとして認められるように。
きっとこれから君と前みたいに
他愛のない話をすることはないかもしれない。
だけれど、陰ながら応援させてください。
君が、君たちが夢を叶える瞬間に私もいたい。