「進路調査なんて書いた〜?」
「あー。えっと俺ね、福岡の龍昇高校行こうかなって。」
「え、めっちゃ遠いじゃん…。一人暮らし?」
「そ、早く家出たくて。俺頭悪ぃの。霹靂もほぼコネ。まじ、親の見栄の産物って感じ。」
見栄の産物、か。うまいこと言うな。
廊下で立ち話してるグループの声を聞きながら、次の授業の準備をする。
「天羽〜。天羽いるか〜。」
「あ、はい。」
設楽先生が俺の名前を読むので、慌てて返事をする。
「ちょっとこっち。」
見栄の産物、という言葉に共感しない訳では無い。
でも、俺にとってはそれはちょうどいいもので。
否定もできないこの状況が、すごくもやもやする。
「それで、天羽。」
「なんでしょう。」
「前の定期テスト、学年一位おめでとう。」
「あぁ、ありがとうございます。」
「…反応薄いな。」
だって、これまでも当たり前だったから…とは言えなかった。
「そういや、進路調査票まだ出てないけど。」
「あ、すみません。まだ書けてなくて…。」
「珍しいな。天羽、提出忘れるとか書けないとか、あんまなかったから。」
「すみません。」
「別に。一週間で将来なんて決まるわけ無いし。」
果たして先生がそれを言って良いのだろうか、という感情を抑え込み、自分の将来を考える。
多分、大学は東大医学部。だから、高校は東大合格率の高い桜風高校だろう。
別に悩むこともなにもない。
…はずなのに。
「はぁ…。」
「何のため息だよ、まだ中学生だろ。俺なんて40だぞ。」
「…先生40なんですか。」
「そうだけど、意外か?」
「いや、妥当です。」
「…素直でよろしい。」
インスタントコーヒーをすする設楽先生は、本当に40って感じだった。
まあこのご時世、若けりゃ良いってもんでもないしな。
「…話はそれだけですか?」
「せっかちだな。本題入るか。」
「お願いします。」
「高橋…山口明來のことなんだけどな、」