「ママレード&シュガーソング♪ ピーナッツ&ビターステップ♪」
きぃ、こ。きぃ、こ。
ブランコに乗るのなんていつぶりだろうか。
「その曲なんだったっけ?」
「シュガソン、シュガソン!ユニゾンのやつ〜」
隣から聞こえる陽気な声は、親友の明來のものだ。
”シュガソン”とやらを口ずさみながら、結構な角度まで漕いでいる。
「聞いて〜、年齢詐称バレて、バイトクビになった!せっかく時給良かったのに〜。」
「何回目だよ…もう驚かねぇわ。でも、あと3つ掛け持ちしてんだろ?」
「そそ。新しいバ先見つかるまでは、そこのシフト増やしてなんとかする〜。」
明來は両親が離婚しており、小学生から母子家庭で育ってきた。
母親は出ずっぱりで働いており、明來自身も中学生にしてバイト三昧の日々だ。
バイトがばれたことで長期休学になっている…表面上は。
でも、本当のところは学費の滞納と、明來の希望で中退となったらしい。
学校でこの事実を知っているのは俺だけだが、みんななんとなく感づいているようだ。
その事実に気づいてもみんな口にしないところが、偏差値の高い中学に入ったメリットかもしれない。
明來とは今でこそ親友だが、最初は関わることはなかった。
何故なら、この学校は成績でクラスが違うからだ。俺は一番上のS、明來は一番下のE。
でも、職場体験のときに明來と出会った。すぐ失踪する明來は、正直言って問題児だった。
ある日、食事休憩に失踪した明來を連れ戻しに行ったときのこと。
「高橋さん、食事休憩ですけど。来ます?」
「…あぁ、は〜い。」
明來は膝を抱えて蹲っていたが、頭を上げて声を出した。目の下が赤く腫れていたので、泣いていたのだろう。
「…体調でも悪いんですか。」
「う〜ん、体調っていうか…。よかったらさ、話聞いてってよ!」
言われるがままに話を聞くことになった俺は、明來についての衝撃の事実をたくさん聞いた。
父親が母親と明來に暴力を振るうこと、今は父親と別居していること、もうすぐ離婚すること、母親だけではお金が全く稼げないこと、だから明來が年齢詐称してバイトをしていること…。
話し終えた明來に、なんと声を掛けるべきかわからなかった。
先に口を開いたのは明來だった。
「…そんな気まずい顔すんなって!聞いてくれて嬉しかった〜。あ、名前なんて言うの〜?」
「天羽瑠唯です。高橋さんは、下のお名前は?」
「明來〜!あ、そろそろ山口になるから把握よろ〜。」
そんなこんなで、俺と明來は親友になった。
隣で聞こえる曲がいつのまにか、Bling-Bang-Bang-Bornに変わっていた。音楽に疎い俺でも流石に分かる。
「明來、ラップ歌えるんだ。」
「そうそう!滑舌怪しいけど、ゴリ押しでなんとか!」
「へぇ…」
こんなに明來は元気なんだ。設楽先生は嘘をついてる。
今の俺と明來には、大きな溝がある。