ヤングケアラ―がブチ切れた日

組織人としての生活から離れて嬉しいことの一つ。
それは、下らないもめ事に関わらなくていいこと。

プロジェクト大成功の打ち上げの場。
ちょっと飲み過ぎたA氏が周りの人たちに絡み始めた。
A氏は、俗にいう「子持ち様」だ。
・家庭をもって一人前
・子孫を残さない人間なんて、何のために生きてるの
・独身、子なしというフリーライダーには重税を
等々、子持ち様お得意の陳腐なクリシェを連発。
周りにいる「様々な事情」を抱えた人たちの神経を逆なでしまくっている。
空気の読めなさも、ここまでくれば逆に清々しい。
これで「一人前」を名乗れるなら、家庭持つ前は、一体何人前だったの？とききたくなる。
もしかしてマイナス5人前とか？

因みに、私自身は、飲み会であれなんであれ、およそ人に絡まれたことはない。
国内外、どこに行っても、早々に変人ポジションを確立してしまい、いい感じに遠巻きにされるからだ。
その昔、スティングが、アルバムのライナーノーツに、
「酔っ払いに絡まれたときは、シェイクスピアを引用するといい。
こいつ、俺よりイカれてる。ヤバイ。
と、相手の方が逃げてくれる」
という主旨のことを書いているが、まあ、その路線。

ともあれ、面倒くさがって誰も制止しないのをいいことに、A氏のウザ絡みはエスカレートする一方。
そして、人もあろうに、Bさんに絡み始めたのが運の尽きだった。
「だいたいさぁ、30にも40にもなって、自分の面倒だけ見るって、人として恥ずかしくないわけ？
やっぱり、自分以外の誰かのために尽くしてこそ、人として成長できるってもんでしょうが」
結構飲んでたBさん、ここで静かにキレた。
「…誰に言ってんの？」
とドスのきいた声で一喝。
そのあまりの迫力に、A氏、ビクッと退く。
そして、すごすごと、お手洗いに行くと言って退散した。

Bさんは、私が面接をして採用した部下の方の一人だ。
面接のときに、話の流れで、ご家庭の事情を詳しく知ることになった。
同居していたお祖父さま、お祖母さまの介護を小学生の時からしていたこと。
お父さまを早くに亡くされ、きょうだいが非行に走り、メンタル不安定なお母様のカウンセラーだったこと。

「30にも40にもなって、自分の面倒だけ見る」？
何を言っている。
お前が、子どもを持った38歳で、やっと自分以外の者の面倒を見始めたなら、Bさんは8歳のときからそれをやっているんだぞ。
ケアラ―歴30年の差がある。
ヤングケアラ―舐めんな。

「自分以外の誰かのために尽くしてこそ、人として成長できる」だ？
38にもなって漸く自分以外の誰かのために尽くし始めたあんたと、8つのときからそれをやっているBさん。
どっちが人として成長してるんだよ。
あんたがその残念さで「人として」成長したと主張するなら、Bさんは「人として」を卒業したお釈迦様だろうが。
まさに、
「誰に言ってんの？」
繰り返すが、
「ヤングケアラ―舐めんな」

この話には、後日譚がある。
A氏は社内結婚。
奥様は大変常識的で、360度死角なしの気遣いが出来る素晴らしい方。
お仕事も超優秀で、当時、営業のエースとして、課長から副部長に昇進するところでした。
飲み会の場でのA氏の言動が奥様に伝わると、奥様ブチ切れ。
「家事育児、ワンオペで私がやっているのに、何が『自分以外の誰かのために尽くす』だ！？どの口が言う！」
大げんかに発展し、その後、紆余曲折を経て、1年後に離婚になりました。
こういう場合、「一人前」が、今度は何人前になったんですかね？

そしてBさん。
私が退職するとき、部門責任者の後任として人事に推薦。
この案はスムーズに採用され、Bさんはしっかりお仕事。
そして、ここ数年の目覚ましい実績を評価され、この春、シンガポールオフィスに栄転が決まったそうです。
アジア・パシフィック地域では、東京は2番手、トップはシンガポール。
お給料も相当上がるはず。
現地での生活を思う存分楽しんで欲しいですね。

子ども時代を「自分以外の誰かのために」使い果たしたBさん。
大人時代は、120％自分のために生きられますように。