また一つ、消えてしまった。
闇の中で偶然見つけた、小さな灯り。
私はその灯りの点いた家の中で、ただ黙って中にいる人たちのことを眺めて、おしゃべりを聞いてた。
家の中に入りながら、一言も私は話さなかった。
ただ灯りの点いた家の中に入って、眺めて、おしゃべりを聞いてるだけ。
それだけで一人じゃないような感じがして。
灯りがあったことだけで、私はほっとした。
ほんとうはそんなの、錯覚なのかもしれないけど。
暗い中を迷っていくうちに見つけた、仮初めの灯りの在り処。
見失わないよう私は自分の地図にいくつも印をつけてる。
今日も辺りが真っ暗になって、必死で地図を広げて灯りを目指した。
でもそこにいつもの光はなくて。
茫然とした。
せっかく見つけたのに。
どうして?
どうしよう。
また探さなくちゃいけない。
まだ私は迷い続けてるままなのに。
あの家にいた誰かたちは、どうしたのかな。
あの家で吐き出された気持ちも、もうどこにもなくなってしまった。
あとは各々の記憶の中だけなんだろう。
私が今日ここで流したこの小瓶も、永遠ではないかもしれない。
ああなんて、虚しいんだろう!!
人の記憶なんて、曖昧なもの!
こうして喪失感と感傷に呑まれてる今でさえ、いつかは風化して薄れていってしまう!
何も残らない。真っ平らな世界!
虚しい!
虚しい虚しい虚しい虚しい………!
虚しい人生。
虚しい世界。
悲しい。
あの日時、彼らが言ってた、あの言葉。
思い出せないことが悲しい。
思い出せないのは、私は結局彼らの会話に耳を傾けてなかった、ってことなのかなあ。
きっとそうなんだろう。
聞き入ってるつもりで、きっと私は何一つ言葉を自分のものにできてなかった。
いつでも思い出せると思い込んでた。
人の記憶力なんてたいしたことないの知ってて。
………
辺りは、まだ暗いままだ。
灯りを、探さなきゃ。
今をしのぐ仮初めの灯りを。
いつか、仮初めじゃない、ほんとうのあかりを…。