褒めてほしいくらいだ。俺は、自分のこと、馬鹿で、不器用だって思ってきた。そう、俺は本当に頭が悪くて、要領も悪くて、同性愛者で苦しみまくって・・・でもよく考えると、俺は、こんな、圧倒的に不利な状況で、周りともうまくやって、しかも夢への切符を手にしている。意外と器用なんじゃないか。
同性愛でさ、好きなやつに好きと言えない、この気持ちがわかるか。すぐそばに、心惹かれる奴がいて、いつも平常心を装って、自分の恋愛話をなんとかかわして、でも下ネタで笑い合う。地獄のような苦しみだけど、それを平然とこなす。
こんな地獄のような苦しみの中、何年も毎日毎日ひたすら勉強して、何回も落ちて、そのたびに立ち上がって、医学部に入った。それからも、またずっと勉強して、さらにまた心惹かれる人ができて苦しんで・・・気持ちが空回りして、なにもかもうまくいかなくて、でも諦めず、また次の困難に立ち向かおうとしている。
苦しくても、やっぱりあいつの前では平静を装って、仲間内では恋愛話を軽くあしらい、下ネタで笑い合って、ヘラヘラ馬鹿な話をして、良好な人間関係を保つ。
子供のころは(たぶん今も)、俺は男の子らしくない子で、やっぱり他の子と、趣味が合わなかったり、人間関係がうまくいかないこともあった。それで傷付いて毎日が憂鬱なこともあった。でも、いつしか、ほどほどに話を合わせて、性的な話も恋愛話も適当にあしらい、それで不快なことがあっても気にしないようなフリをして耐えて、人間関係を築いていく術を身につけた。
俺より、なんでもうまくやっているやつ、成績が良いやつ、いっぱいいる。俺はいまでも失敗だらけ。でも、俺はそんな奴らより、実は器用かもしれない。だって、こんな不利な状況から、必死に食らいついているんだから。
自信を持とうと思う。なにも知らない、勝手なことを言う奴らは、俺をさぞかし馬鹿で、怠け者で、要領が悪いって、言うだろう。言ってろ。
どれだけ苦しんで、死にたいと思って、失敗を繰り返して、立ち上がってきたと思っているんだ。地獄の中を泣き言いわず、生き抜いていると思っているんだ。
貴様ら、俺を気楽で揚々と生きているとでも思っているのか。この気楽さは、地獄を生きて来た者の余裕さ。