眠ってしまえば逃れられると
ここから
わたしから
離れてゆこうとして
うまく眠れないくせに
そこしか居場所がないみたいに
考えても答えはでない
決意することもできなくて
またたく間に衰えてゆく
目をあけていられない
心を
思考を
学んだものを
得たはずのものすべてを
それでも私は覚えておきたかった
だけどそれらを上回る強さで
忘れてしまいたいことがある
もはやここには居られないのだと
そのたび深く思い知らされ
大事に残しておきたかったものまでをも
巻き添えにして忘れてしまう
長い眠りのなかで
眠ってしまえば逃れられると
長すぎる眠りが
私から
あらゆるものを取りあげてゆく
私/わたしのせいじゃない
あなたのせいじゃない
だけど
この喪失感をどうしてくれるのかと
無性に誰かを責めたくなった
つかの間眠りから醒めて
心は
生まれたばかりの清らかさを失ってゆく
この心は
やわらかいままでいられなかった
私は
誰かに気づかれたかった
生まれたままの形を保った
やわらかなこの心の有り様を
尊いものだと称えられたかった
大事にされて
愛されて
望むかたちで膨らんでゆく
そういうものでありたかった
眠りの淵へ引きずられてゆく
いつの間にか深みへと沈んでいる
光のないこの海は平安と紙一重で
結局私は眠ってしまう
眠りすぎてしまう
そのうちきっとまた何かを忘れ去り
そのうちきっと何かを振り出しに戻す
やすらぎと逃避の浩蕩たる海へ
眠りとともに漂い流れる
櫓をもたない小舟みたいに
自我は分裂し四方へ散らばって
散らばった先で砕け散って
砂になって
正体を失った
わたしたちは
なにも持たずにただ漂っている
私には眠りとは脅威だ
まだ眠りたくないのに
眠くてしかたない
それでも
だけど
わたしには
眠りとは
脅威だろうか
眠ってしまえば忘れられると
私であることを放棄しようとしたりして
うまく起きていられないくせに
そこしか居場所がないみたいに