妹の癌に気づかなかったのは自分のせいだと、母が自分を責めている。
母の手術からようやく六年。まだ六年。もう六年。
再発も転移もなく何事もなく、このまま日常を送れるようにと祈っていた。
お母さんのせいじゃないよ。
お母さん、わかるわけないよ。
いつも笑って元気に走り回ってて、十年以上も病気にかからなかったあの子が、あの若さで癌になるなんて。
そりゃあ、癌体質だったのは、お母さんから受け継いでしまった癌遺伝子があったからかもしれない。
確かにそろそろ、癌に気を付けなくてはならない年齢だった。
自閉症のあの子は、体調の不調なんて訴えない。だから尚更、家族が注意を払うべきだった。
気づいてやれなかったのは私だって同じだ。
でもだからって、代わってやりたいだなんて考えないで。
自分を責めて、自分の体を弱らせないで。
せっかく鍛えた免疫力を落とさないで。
お母さんまで再発した、転移したとなったら、今度こそ私達家族は心が壊れちゃうよ。
お母さんはお母さんで、妹の過酷な運命に苦しんでいるのはわかってる。
だけど私だって、お父さんだって苦しんでいるんだよ。
辛いのはお母さんだけじゃないよ。
バカで不器用で、ずっと役立たずな私だけど、お母さん達の役に立ちたいと思っているんだよ。
あなたはきっと、私に八つ当たりをするでしょうね。
あなたは私を信用していない。何を生意気なことを言うんだと、怒るでしょう。
だけどそれでストレスが少しでも軽減されるなら、それでも私は構わない。
お母さん。
もし妹が長生きできなかったとしても、後を追おうだなんて今から考えないで。
もういつ死んでも良いだなんて言わないで。
私はあなたに見捨てられても仕方がない人間だけど、お母さんが癌になった時、陰で一番頑張っていたのはお父さんだよ。
せめて、お父さんを置いて逝かないであげて。
もしお母さんが先に死んじゃったら、お父さんはきっとお母さんの後を追う。
もちろん私だって、お父さんにもお母さんにも置いて逝かれたくない。
置いて逝かないでって、叫びたいよ。
…妹と代わってあげたいのは私の方だよ、お母さん。