人生で一度でいいので愛されるという経験をしてみたいです。
中学生の頃からひとりで過ごすことが多くなりました。高校時代、小さな学校だったのですが、男性の中で私ひとりだけが恋人ができず、仲の良い友人もいないまま卒業しました。育った土地を離れて暮らしてみても同じです。
少しだけ、ある人の話をさせてください。20歳の頃、ひとりの、いわゆるトランスジェンダーの方と仲良くなりました。女性の体なのですが、心はどちらでもない方でした。
簡単に言いますと、私はその方のことを好きになってしまいました。相手は心が女性ではないのです。絶対に叶わないのだろうな、と思いながらも連絡を重ね、ふたりで星を眺め、お花見をし、初めて思う人とふたりきりで出かけられ、嬉しくて、嬉しくて、「絶対」がもしかしたら無いかもしれない、と信じてしまったんです。
突然、連絡が途絶えました。私の抱える感情が伝わってしまわないよう気をつけてはいたのですが、私の言葉の端からこぼれてしまったのかもしれません。私の好きという心が、その人にとっては嫌だったのでしょう。そこから2年間、ひとことも口をきかず、連絡することもありませんでした。
二ヶ月前です。その方から連絡があり、あの時はごめんね、私も自分の性別のことや家のことで悩んでいて、つらくあたってしまった、そう言われました。確かに私がどれだけ悲しくて、寂しくて、また失った、いつもこうだと自分を責めたか知る由もないでしょう。恨んでもいいくらいです。ですが、たったひとつの連絡だけで私は救われたのです。それだけでその悲しみすべてがなくなってしまうくらい嬉しかったのです。
以前よりもずっと親密になれた気がします。家庭の不和のことから、雨に濡れる紫陽花がが綺麗だったこと、本当に小さなことまで、憤りや幸せをふたりで話し合いました。住んでいるところが離れている分、長い通話もしたり、私にとっては失った二年間を取り戻すような時間でした。春の自分では信じられないくらい、梅雨の生活の中にその人がいました。
その人が東京に用事があってくるというので、少しだけ時間を作って会えることになりました。そして二年振りに会うと、その人は私の記憶にある姿とあまり変わらず、いつものように優しく話しかけてくれて、そして話すのが下手な私の言葉を遮らず聞いてくれました。
失敗しました、明かに。些細なことなのですが、東京からその人の住む土地へ帰ったことを知らせる連絡が来なかったのです。普段であれば、必ず無事に帰れたことを教えてくれたでしょう。私は心配になり、帰れた、と聞きました。すると一日ほど経った後、短く、うん、とだけ返事がありました。数日後に意を決して、やっぱり何か悪いことをしましたか、と聞くと、なにもないよ、とだけ。それから無言と無音の三週間が経ちます。
嫌いになったのなら、あなたのここが気に食わない、嫌いだ、と言って欲しいです。地獄に突き落として欲しいです。そうしたら反省して地獄で罪を償うのに。しかし、よく考えれば、相手に敵意を向けることは労力を使うことで、そんなことわざわざ嫌いな人にしないよな、とも思います。ちゃんと嫌になった理由を教えて欲しい、だなんてわがままです。
愛されるとことはこんなにも難しいことなのでしょうか。人並みでいいのです。人並みに愛されてみたいのです。人と同じように愛されない私は人ではないのでしょうか。
地獄の縁を歩いています。夜鷹は強い意志で星になれたけれど、私は飛び込む勇気がなく、底を覗く妄想をしては恐れる日々です。